移乗ロボットを使ってみた。老々介護の父と母が、ラクになった話

移乗ロボットを使ってみた。老々介護の父と母が、ラクになった話

介護のなかでも、体力的にいちばん大変なことのひとつが「移乗」です。ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレへ——。体を支えて移す動作は、する側にもされる側にも、大きな負担がかかります。

我が家では、この移乗の負担を、移乗ロボットで軽くすることができました。今日は、実家での体験を、正直にお話ししたいと思います。同じように移乗で悩んでいる方の、参考になればうれしいです。

小柄な母が、大柄な父を介護していた

私は実家を離れて暮らしていて、介護をしていたのは母でした。小柄な母が、体の大きな父を介護する——いわゆる老々介護です。

移乗のたびに、母は全身で父を支えなければなりませんでした。見ているこちらが、いつ母が腰を痛めるか、いつ二人とも転んでしまうか、ひやひやするような状態です。

そして、つらいのは母だけではありませんでした。父のほうも、「書斎で少し過ごしたい」「トイレに行きたい」と思っても、そのたびに母の手をわずらわせるのが申し訳なくて、頼みづらいようでした。行きたいところに行けない父と、頼まれるたびに体を張る母。どちらにとっても、移乗は重い負担になっていたのです。

きっかけは、母が見ていた一本の動画

母は、なんとか移乗を楽にできないかと、いつも熱心に情報を集めていました。スライドボードやスライドシートといった福祉用具を、レンタルであれこれ試していた時期もあります。

そんなある日、母が見ていたのが、ある介護施設が移乗ロボットを導入して、ヘルパーさんの負担が大きく減ったというYouTubeの動画でした。「こういうものが、家でも使えるんじゃないか」。そこから家族で話し合い、移乗ロボットの導入を、本格的に検討しはじめました。

まず、家族が”される側”になって試した

導入を決める前に、私たちがやってよかったと思っていることがあります。それは、実際に自分たちが”介護される側”になって、ロボットに乗って試したことです。

しかも、介護する側である母自身も、あえて”される側”として乗ってみました。実際に使うのは父ですが、その父が不安や痛みを感じないか、家族が先に自分の体で確かめておきたかったからです。

乗ってみて、初めて分かることがたくさんありました。「ここが体に当たると痛い」「この動きのとき、少しバランスを崩しそうで怖い」——される側にしか分からない感覚は、カタログを見ているだけでは絶対に分かりません。自分たちで体験したからこそ、「父にはこの場面で声をかけてあげよう」「この姿勢のときは特に気をつけよう」と、先回りして気づかえるようになりました。

もし試せる機会があるなら、介護する側も、ぜひ一度”される側”になってみてください。これは、心からおすすめしたいことです。

導入して変わったこと:乗り換えが、一度で済む

実際に使いはじめて、まず驚いたのは、移動がとてもシンプルになったことです。

それまでは、ベッドで体を起こし、いったん車椅子に移り、書斎やトイレに着いたら、また車椅子から移る——というように、何度も”乗り換え”を繰り返す必要がありました。その一つひとつが、母にとっても父にとっても、負担だったのです。

移乗ロボットを使うと、ベッドで座った姿勢のまま体を預ければ、そのまま目的の場所まで移動できます。途中の乗り換えが、まるごと要らなくなったのです。しかも、機械に一方的に運ばれるのではなく、本人とロボットが息を合わせて動く感覚で、まるでちょっとした運動をするように、自然に移動できました。

いちばんの変化は、二人の”空気”だった

負担が減ったこと以上に、私がうれしかったのは、父と母のあいだの空気が、やわらかくなったことです。

それまで父には、「頼むのが申し訳ない」という気持ちが、いつもありました。母は母で、体がしんどくても、父が「行きたい」と望む場所へは、なんとか連れて行こうと頑張っていました。お互いを思いやるからこそ、二人とも、少しずつ無理を重ねていたのだと思います。

移乗ロボットが入ってから、その無理が減りました。父は遠慮せずに動けるようになり、母は体を痛める不安から解放されました。移乗という重たい負担が軽くなったことで、お互いに気をつかいすぎることが減り、二人の関係そのものが、少し楽になったように見えました。

介護は、体力の問題であると同時に、「する側」と「される側」の関係の問題でもあります。移乗ロボットは、その関係の重さまで、そっと軽くしてくれたのだと思います。

正直な話:費用のこと

いいことばかり書いてきましたが、正直にお伝えすると、費用は決して安くはありませんでした。移乗ロボットのような機器は、それなりの価格がします。ここは、導入を考えるうえで、避けて通れないポイントです。

ただ、我が家の場合も、いろいろと調べたり相談したりしながら、なんとか導入できる形を整えていきました。そして、いま改めて調べてみると、以前よりも利用しやすい環境が広がってきているようです。こうした機器の多くは、福祉用具のレンタルで利用できるようになってきていて、介護保険のレンタル対象になる機種もあります。介護保険が使えれば、自己負担は原則1〜3割。自治体によっては、独自の助成が受けられることもあります。

「高そうだから」と最初からあきらめず、まずは担当のケアマネジャーや、福祉用具の専門相談員、地域包括支援センターに相談してみることをおすすめします。「移乗がつらいのだけど、使える機器はありますか?」と聞いてみるだけでも、道が開けるかもしれません。レンタルなら、いきなり大きな買い物をせずに試せるのも安心です。

そして、これは母を見ていて思ったことですが——福祉用具のレンタルは、まるでカタログショッピングのような楽しさがあります。「次はこれを試してみようか」と、少しずつ暮らしに合うものを探していく。介護というと大変なことばかりに思えますが、こうして”合う道具”を見つけていく時間には、ささやかな前向きさがありました。いろいろ試せるのは、レンタルならではの良さだと思います。

まとめ:移乗ロボットは、関係もラクにしてくれた

移乗ロボットは、我が家にとって、単に「体力的な負担を減らす道具」ではありませんでした。父の「行きたい」と、母の「支えたい」を、どちらも無理なく叶えてくれる——そんな存在でした。

家族の介護に、新しい続け方を。もし今、移乗のことで悩んでいるなら、こういう選択肢もあるということを、頭の片隅に置いておいてもらえたらうれしいです。まずは試してみること、そして家族自身も”される側”を体験してみること。そこから、見えてくるものがきっとあります。

介護テック全般については、介護テックって何?家族が知っておきたい5つの分野でも整理しています。あわせてどうぞ。

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